はじめよう実験計画

実験を早く終わらせるための技術

ペーパーヘリコプターの最適化(その3)|応答曲面と最適化

目次

 

概要

今回は、前回(その2)で計画した拡張計画を含めた実験結果を解析し、ペーパーヘリコプターの落下時間の最適化(最大化)を行っていきます。最適化では、応答曲面を利用してパラメータを変化させました。

前回までの記事(その1、その2)を読んでない方は、まずはそちらからお読みいただければと思います。

sturgeon.hatenablog.com

sturgeon.hatenablog.com

実験結果と解析

表1に全体計画(スクリーニング計画+拡張計画)と落下時間の測定結果を示します。9つの要因を変更しながら、全部で20回の試行を行いました。

拡張計画の結果(下半分)はスクリーニング計画から最適な方向の当たりを付けて行っているため、想定した通り落下時間が長くなっています。中でもRunOrder20のサンプルは、7秒台という非常に長い時間を記録しました!

 

f:id:Sturgeon:20200306100737p:plain

表1. 全体計画(スクリーニング計画+拡張計画)の実験結果

 

表1の結果を用いて、ステップワイズ法により2次式のモデル選択を行いました。表2にその結果を示します。

f:id:Sturgeon:20200306102021p:plain

表2. ステップワイズ法によるモデル選択

 

表2において、VIFは共線性を示しており、1なら共線性が全くなく、数値が大きいと共線性が大きい。VIFが5以上の項は正しく推定できないらしいです。

表2から作成されるモデル式(応答曲面)は次のようになります。

 Time = 3.8 - 0.14B - 0.36F + 0.20R + 0.20F*F + 0.07R*R + 0.25B*F+ 0.09B*R - 0.13F*R

式だけだと挙動が分かりにくいですが、図2のように、応答曲面を要因B・F・Rごとに見てみるとよく分かります。

 

f:id:Sturgeon:20200306102808p:plain

図2. 応答曲面の各要因に対するプロット

まず図2のBのグラフ(一番左)を見てみましょう。このグラフはFとRに関しては平均して、B vs. 落下時間のグラフを書いたものです。図3のFとRのグラフも同様に他の要因に関しては平均値を用いて、FあるいはR vs. 落下時間をプロットしています。

図3より、FとBは小さいほど、Rは大きいほど落下時間が長くなることが分かります。

ここで、Fはウィングレット長ですが、最小値-2に対応する実際の値が0 cmであり、これ以上短くはできません。したがって、さらなる最適化ではF=-2(0 cm)で固定して、BとRだけを動かすことにします。

調べる要因がBとRの2つだけになったので、応答曲面は2次元のコンタ―図として表せますね。図3がBとRのみ変数として落下時間をプロットした応答曲面です。

9つの要因から始めて、ついに2つの要因まで絞るところまで来たなぁ…

 

f:id:Sturgeon:20200306104040p:plain

図3. BとRを変数とした落下時間の応答

図3中の黄色のベクトルは応答曲面の極大点の方向を指しており、モデル式をBとRに関すふ偏微分=0の式を解けば、

(B,R) ∝ (-1, 0.86)

と得られます。この方向に沿ってBに関して-0.25ずつ動かしてながら最適点を探すことにしましょう。

応答曲面に沿った最適化

それでは、最大化の方向に沿ってBとRを変えた実験結果を表3に示します。

 

表3. 最適化結果
Sample B R B(cm) R(cm) Time1(s) Time2(s) Time3(s) Time4(s) Time5(s)
1 -1.75 2.36 1.25 9.36 7.62 7.28 7.69 - -
2 -2 2.575 1 9.575 8.2 7.3 7.86 8.13 7.88
3 -2.25 2.79 0.75 9.79 8.71 8.56 8.33 8.26 8.38

 

Sample1は今までのベストサンプル(表1のRun19)で、最適化の結果と比較するため再掲しました。

Sample2とSample3は、落下時間の標準偏差として0.31秒を仮定(今までの結果より)したとき、0.7秒の違いを有意水準0.05・検出力80%以上で検出するため、繰返し5回の測定を行いました(検出力と必要なサンプル数についてはこちらをご覧ください)。

表3の結果をプロットしたのが図4です。

 

f:id:Sturgeon:20200307184207p:plain

図4. 最適化の結果

図4より、Sample1、2,、3の順に確実に増加していることが分かります。 応答曲面と落下時間の最大化方向が間違いではなかったことが確かめられたので安心しました。

さらに落下時間を最大化する方向(Bを小さく・Rを大きく)にパラメータを動かすこともできますが、紙の強度の問題でB<0.75 cmのペーパーヘリコプターを作成することが難しかったため、Sample3を最適サンプルということにして、実験完了です!

 

最後に、最適化後(動画中:左)と最適化前のサンプル(動画中:右)を同時に落としてみました。いかに落下時間を増加できたのか、分かっていただけると思います。

 

youtu.be

  

まとめ

これまで、その1~3にわたってペーパーヘリコプターの落下時間の最適化を行ってきました。以下に、この実験の全体の流れを簡単にまとめてみました。

その1(有効な因子の抽出)

まず、12回のPlakett-Burman計画+1回のセンターラン(計13回)のスクリーニング計画により、9つの要因の中から4つの重要な因子B・F・R・Gを抽出しました。これらのうち要因G(翼の間隔)は0 cmで固定するべきであることが分かったので、以降の実験は3つの要因B・F・Rで行うことにしました。

その2(D最適計画による実験の拡張)

要因として3つの要因B・F・Rを考慮し、スクリーニング計画を含め全体として試行回数が20回になるように、拡張計画を作成しました。

拡張計画では全体の計画が「D最適」になるように実験点を選びました。

その3(応答曲面を利用した最適化)

実験結果の解析により、要因B・F・Rを変数とした落下時間のモデル式を作成し、そのモデル式を利用して最適化を行いました。

結果として、スクリーニング計画段階の標準的な落下時間が約4秒だったのが、最適化後は7秒まで増加しました。

 

さて、最初の目的は20回程度で、最適サンプルにたどり着くことでしたが、本実験は全サンプル数22個で完了しましたので、目標はクリアということでいいでしょう。

仮に9要因2水準で全組合せを調べたとすると29=512個のサンプルが必要であることを考えれば、22個というサンプル数は極めて少ないと言えます。今回のように要因数が多い場合には、2段の最適化が有効だと思います。